
鏡の中にいるのは、17歳の頃の瑞々しい肌と、鋭い眼差しを取り戻した私、ひでか。かつての輝きを奪おうとしたこの家は、今やただのバグだらけの古いシステムに過ぎない。
第1章「スキャンとデバッグ」
私は泣き寝入りするのをやめた。理不尽な言葉を投げかけられるたび、私は心の解像度を上げ、それを淡々と記録していく。

夫である健二が吐き出す無神経な言葉は、すべて「ログ」として私のスマートフォンに蓄積されていく。彼は気づいていない。私がキッチンで優雅にコーヒーを淹れている間も、そのシステムエラーを一つ残らずスキャンしていることに。この1ヶ月、私は完璧なデバッグ作業に没頭した。復讐は、感情ではなく正確なデータから始まるのだ。

眠る娘たちの寝顔を見つめる。長女のりな。
彼女たちの未来に、この「不具合」を引き継がせるわけにはいかない。私は真夜中、暗いリビングで一人、収集した証拠を整理する。画面の光に照らされた私の横顔は、17歳のあの頃よりもずっと強くて、冷徹で、美しい。

第2章「強制フォーマット」
2ヶ月目、私は調停の席に座っていた。感情的に怒鳴り散らす健二に対し、私は用意したログを淡々と提示する。ルールの前では、彼の「正論」という名の暴力は通用しない。私はシステムの管理者として、この場を完全に制圧した。彼の顔から余裕が消え、絶望がデータのように上書きされていく。

「これは感情の話じゃない。規約違反の問題よ」
私の声は、冬の夜の空気のように澄んでいた。彼との思い出という名のキャッシュをすべてクリアし、ディスクを初期化する。17歳のマインドを持つ私は、重たい過去を背負って歩くつもりはない。不要なファイルはすべてゴミ箱へ。空っぽになった心に、新しいOSをインストールする準備が整った。

離婚届という名の実行ボタンを押し、私は自由を手に入れた。17歳の美貌は、私の再生の象徴だ。重いコートを脱ぎ捨て、ヴィヴィアン風のチェックのミニスカートに着替える。世界はこんなにも鮮やかだった。私は、りなの手を引き、新しい「ログイン先」へと歩き出す。

新しいマンションの鍵を開ける。そこは、私たちが自分たちのルールで構築する「三人の聖域」。壁紙は真っ白で、窓からは東京の夜景が一望できる。
第3章「起死回生のサーバー構築」
次女のまきが、新しい部屋を走り回っている。誰にも邪魔されない、完璧なプライベート・ネットワークの始まりだ。

部屋をデコレーションしていく時間は、まるでお気に入りのサイトをデザインするような楽しさだ。パンクでファッショナブルなクッション、お揃いのシルバーの食器。りなと一緒に、自分たちの色で空間を塗り替えていく。17歳の感性は、大人になった私に最高のセンスを与えてくれた。

今夜は新しい生活のキックオフ・パーティー。食卓には、色とりどりの料理が並ぶ。かつての冷え切った食卓とは違う、温かい湯気と笑い声。私は、りなと顔を見合わせてゲラゲラと笑う。箸が転んでもおかしいくらい、今の私たちは自由で、無敵だ。

「ママ、今が一番可愛いね」と、まきが言う。私は頷き、最高の笑顔で彼女に答える。過去はデバッグされ、不具合は消去された。ここにあるのは、私とりなとまきの、三人だけの聖域。最高のエンディングは、いつだって新しいスタートラインだ。ログイン完了。私たちの物語は、ここから加速する。
